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軟骨無形成症について

軟骨無形成症とはこんな病気です

はじめに

軟骨無形成症(軟骨異栄養症といわれることもあります)は、軟骨細胞の異常によって骨の形成が阻害され、手足の短縮を伴う低身長になるとともに、全身に多様な症状が起こり得る病気です。

実はエジプトの古い石板や中世ヨーロッパの絵画にも描かれているほど古くから存在する病気ですが、近年まで原因も治療法も分かりませんでした。

病気の原因と主な症状

軟骨無形成症の代表的な症状は手足の短縮を伴う低身長で、成人男性の平均身長は130cm前後、女性では124cm前後にしかなりません。また、腕をおろした状態で指先が大点子(太腿の付け根部分)あたりまでしか届きませんし、指も短く、手を広げたときに中指と薬指の間が広い、三尖手という状態になることが知られています。

また腰椎の彎曲が大きく、直立したときにお尻を後ろに突き出したような体型を取りますし、胴体と比べて頭は大きく、額が出て鼻の付け根が低い特徴的な顔貌をしています。

この病気は手足の短縮を伴う低身長症(四肢短縮型低身長症)のなかでは最も頻度の高い病気ですが、その出生率は1万人から2万人に1人程度だといわれています。

その原因は長らく不明でしたが、近年の研究により、細胞内の第四染色体にある遺伝子の特定の一点が変異(*1)していることが分かりました。腕や脚などの骨は、成長軟骨といわれる軟骨が増殖して骨に置き換わることで縦方向に伸びますが、この病気では遺伝子の変異によって軟骨が骨に置き換わる過程で異常が起こり、骨の伸びが阻害されることが原因だとされています。

 遺伝子の変異は全身の骨に影響を及ぼすため、この病気では手足の短縮を伴う低身長の症状だけでなく、大後頭孔の狭窄や水頭症(*2)などの脳神経に関する問題、睡眠時無呼吸症(*3)脊柱管狭窄症(*4)や腰痛などの脊椎・脊髄に関する問題、浸出性中耳炎や真珠腫などの耳に関する問題、O脚や関節可動域の異常、歯列や噛み合わせの異常などの、さまざまな合併症が起こり得ます。

これらの症状は、その発症頻度や重症度は多様で個人差も大きく、また対応する診療科も多岐にわたります。ただ実際に乳児期から学童・学生期の患者を見ると、多くの子供たちは重篤な合併症を伴わず、それなりに元気に日常生活を送っています。

この病気は常染色体優性遺伝といって、両親のうちどちらか一方が患者の場合、50%の確率でこの病気の子供が産まれます。また両親とも患者の場合、子供は50%の確率で親と同程度の症状を持ち、25%の確率でより重篤な軟骨無形成症になります。

ただし患者の大多数は親からの遺伝ではなく、この病気ではない両親の間から、遺伝子が突然変異することで発病します。その場合、続けて同じ病気の子供が産まれる確率は、極端に低いことが分かっています。

病気の経過と治療

この病気に対して現在、成長ホルモンの投与(*5)骨延長手術(*6)が行われています。ただこれらは、手足の短縮や低身長の改善に一定の効果はありますが、この病気そのものを治すことはできません。

この病気は遺伝子の変異が原因だとされるため、現在も、また近い将来にも、根本的な治療法が確立される可能性は低いのです。

乳幼児期

大後頭孔の狭窄や水頭症、無呼吸症などを起こす恐れがあり、生後数年間は定期的な検査が必要です。しかし、治療が必要になるケースは、それほど多くありません。また、首のすわりや歩行等の運動発達は同年齢の子供たちからは遅れますが、知能的な問題はないとされています。ただ、あまり大きく遅れるようでしたら、合併症等の疑いもありますので、主治医の診察をお受けください。

軟骨無形成症児の修正成長曲線が別ページにありますので、参考にしてください。

また、この時期は中耳炎や鼻炎なども起こしやすく、慢性中耳炎や浸出性中耳炎に対する注意が必要です。また中耳炎による聴力の低下が言葉の発達に悪影響を及ぼす可能性もあり、場合によって耳鼻科的な治療が必要になることもあります。

学童・学生期

同年代の子供との身長差が大きくなり、生活上の不便さや、心理的な負担などに気をつける必要があります。また、O脚矯正などの整形外科的治療や、歯列矯正などの歯科・口腔外科的治療が必要になる場合もあります。

成長ホルモン治療や骨延長術を選択する場合、この時期に行うことが多いようです。

成人期以降

特に気をつけなければならないことは、脊柱管狭窄症です。

この病気の場合、比較的若い年代から脊柱管狭窄症の症状が出ることも珍しくありません。またこの症状が出た場合、自然に治癒することは考えにくいという現状がありますので、日ごろの注意と専門医への早めの受診や治療が必要になります。

また、この病気そのものは寿命には影響を及ぼさないといわれていますが、肥満や睡眠時無呼吸症などの影響で突然死を起こす恐れもあるという研究発表もありますので、体重管理や合併症への対応には気をつけたほうがいいでしょう。

この病気の女性が妊娠・出産する場合、骨盤が狭いため妊娠中は注意深く経過を診ていく必要がありますし、帝王切開での出産を選択することが一般的です。

各症状の起こりやすい時期や主に注意すべき事項は以上の通りですが、年代に関わりなく各症状が出る場合もありますので、この点も注意が必要です。なお、以上の内容は軟骨無形成症に関する一般的な説明です。経過や症状には個人差がありますので、個別の問題や具体的な内容については、主治医や専門医にご相談されることをお勧めします。

類似した病気

軟骨無形成症と類似した病気に、軟骨低形成症、致死性骨異形成症、偽性軟骨無形成症などがあります。それぞれの病気の主な症状は、以下の通りです。

  • 軟骨低形成症
    手足の短縮を伴う低身長症ですが、短縮の程度も低身長も軟骨無形成症ほどは強くありません。多くの症例ではFGFR3の一部(軟骨無形成症とは違う部位)に変異が認められますが、FGFR3には変異が認められない症例もあります。
  • 致死性骨異形成症
    手足の短縮の程度も低身長の程度も軟骨無形成症よりも強く、最悪の場合、胎児の時期に死に至るか、生後幼いうちに命に及ぶことが多いといわれています。この病気も、FGFR3の一部(軟骨無形成症とは別の部位)に変異があることが確認されています。
  •  偽性軟骨無形成症
    手足の短縮を伴う低身長の病気で、軟骨無形成症と似た体型になるため病名に"偽性"との名称がありますが、原因も違う、別の病気です。軟骨無形成症特有の顔貌ではありませんし、軟骨無形成症には見られない症状も見受けられます。
語句の説明

*1.軟骨無形成症の遺伝子変異) 人間の細胞には23対46本の染色体(遺伝子の集合体で、22対の常染色体と1対の性染色体がある)があり、全ての遺伝情報はこの中に収められている。
軟骨無形成症ではこのうち第4染色体の短腕部・P16.4という場所の1138番目の塩基・グアニン(G)がアデニン(A)かシトシン(C)に置き換わったことが確認された。この変異によって繊維芽細胞増殖因子受容体3(FGFR3)というたんぱく質に変異が起こり、成長軟骨が十分に増殖しないまま骨化が起こることが、軟骨無形成症の原因だとされている。

*2.水頭症・大後頭孔狭窄) 頭蓋骨の底の部分に神経(延髄)や髄液の通る空間があり、これを大後頭孔という。
軟骨無形成症では一般の人よりも大後頭孔は狭いが、多くの場合治療が必要なほど狭いわけではない。ただ一部の患者では大後頭孔が狭いため神経が圧迫されたり、髄液の循環が阻害されたり脳圧が高まったり(水頭症)することがあり、外科的治療が必要な場合がある。

*3.睡眠時無呼吸症) 軟骨無形成症では睡眠時無呼吸症を起こしやすいことが知られているが、その原因として、大後頭孔狭窄による神経の圧迫、気道の狭さや筋力の弱さ、肥満などの体型的な問題などが関係すると考えられている。
そのため、治療には耳鼻科だけでなく、脳神経外科などの各専門医の診断を受けて対応することが望ましい。

*4.脊柱管狭窄症) 軟骨無形成症では背骨の神経の通り道(脊柱管)が狭く、一般の人より神経の圧迫(脊柱管狭窄症)が起こりやすい。圧迫される場所で症状は違うが、腰椎で圧迫された場合、足が痺れたり、一定時間歩くと脱力感が起こり、少し休むと回復する間欠跛行(はこう)の症状が出たりする
。こうした症状が出た場合、早めに専門医の診察を受ける必要がある。

*5.成長ホルモン療法) 軟骨無形成症では成長ホルモンは普通に分泌されていることが多いが、さらに投与することで身長の伸びが増すことが期待されるため、治療法の一つとして認められている。
治療はほぼ毎日、自宅で本人や家族が注射することになる。治療開始年齢は、最低でも大後頭孔狭窄症の悪化の心配がなくなる3歳以上(3歳になれば始めるべきという意味ではない)で、骨端線が消滅する思春期まで治療することが出来る。また治療の効果は最初の1年間が最も大きく、年数を重ねるごとに効果が減少することが多い。

*6.骨延長術) 骨延長術(仮骨延長法)は、骨折した骨がギブス固定することで自然につながる骨の自己修復力を応用して骨を伸ばす手術。
伸ばす骨を手術で切断し、上下を創外固定器という器具で固定して仮骨ができるのを待ち、徐々に延長することで骨を伸ばしていくもの。
延長速度は1日約1㎜で、前後の期間を含めた延長期間は1cmについて約1ヶ月かかる。軟骨無形成症では、大腿・下腿と上腕の延長が可能。
ただし、関節の状態や脊柱管狭窄症などによって、骨延長が適さない場合もある。手術を行う時期は、手術について理解して自分から治療に取り組める十代前半から、筋肉や腱などの柔軟性のある二十代までに行うことが多い。